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ママの腸内フローラが赤ちゃんに教えること

妊娠中における母体はホルモン調節、免疫系の調整、栄養素の供給などが行われ、それらが胎児の発達に大きく影響します。例えば、母体の歯肉炎などの健康問題は早産や低体重のリスクを高めます。そのリスクを下げるため、母体の菌質環境を整えることが重要です。一体どのようなことに気をつけたら良いのでしょうか。

1.妊娠中の母体の菌環境

妊娠は、母体と胎児の間でホルモン調節・免疫系の調整・栄養素と酸素の供給などの相互作用が行われる時期です。具体的には、以下のようなことが体内で起こっているのです。

<ホルモン調節>

妊娠中には、母体のホルモンバランスが大きく変化します。例えば、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)という妊娠を維持するために重要なホルモンが産生されます。このホルモンは、黄体を刺激して黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌を促進し、子宮内膜を増殖・発達させ、受精卵の着床・胎児の発育に重要な環境を作ります。

<免疫系の調整>

母体の免疫系は妊娠中に調整されて胎児を異物として拒絶しないようになります。このために、特定の免疫細胞(例えば、Treg細胞)の活動が増加し、抗炎症的な環境が作られます。これにより、胎児は母体の免疫系による攻撃から保護されます。

<栄養素と酸素の供給>

胎盤は、母体から胎児へ酸素や栄養素を運ぶ重要な役割を果たします。胎盤を通じて、炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルなどが胎児に供給されます。また、胎児の代謝によって生じた廃棄物や二酸化炭素も胎盤を通じて母体に戻され、排除されます。



このように、妊娠中に母体の免疫システムは調整され、胎児を受け入れるように大きく変化します。これらの変化は、腸内フローラにも影響を与え、さまざまな微生物のバランスが変わるため、本当に気をつけなければなりません。例えば、歯肉炎は妊娠中に多く見られるのですが、これは免疫システムや腸内フローラの変化が原因です。実際、妊娠性歯肉炎は早産や低体重のリスクを高めるとされており、母体の健康が直接的に胎児の健康に影響を与える具体的な例と言えるでしょう。

出典:「妊産婦における 口腔健康管理の重要性」 (厚生労働省)
(https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000488879.pdf)

ちなみに、歯肉炎と早産は一見すると直接的な関連がないように見えますが、これにはちゃんとしたメカニズムがあります。歯肉炎は悪化すると、歯周炎という病気に変わります。さらに進行すると、歯周病菌の毒素や歯ぐきから炎症を起こす物質が多く産出されます。これが歯ぐきの毛細血管に入りやがて子宮に到達してしまうと、赤ちゃんが生まれる状態ではないにもかかわらず子宮が収縮してしまって早産の可能性が高まってしまうというわけです。

2.赤ちゃんの菌質環境の形成

上記のような母体環境の中で、赤ちゃんの健康な成長は始まります。特に妊娠初期段階での菌環境の形成は、赤ちゃんの免疫システムと健康の基盤を築きますので、母体は入念に気配りをしなければなりません。

妊娠期が進み、自然分娩の過程になると赤ちゃんは母親の膣内および便内の細菌、特に乳酸棹菌やビフィズス菌などの有益な菌にさらされます。これにより、赤ちゃんの腸内に最初の菌コロニーが形成され、健康な免疫システムの発達を促します。

ですが、出産方法を含む何らかの要因によって菌環境の不均衡や特定の細菌群の欠如が見られると、1型糖尿病、セリアック病、肥満、アレルギー、喘息など、子どもの将来の健康に長期的な影響を及ぼすことが懸念されています。このように母体の菌質環境とその赤ちゃんへの伝播は、赤ちゃんの健康と免疫システムの発達に重要な役割を果たします。妊娠中および産後のママが自らの菌環境のバランスを整えることは、子どもたちの健康にとっても大変重要なことなのです。

3.ロイテリ菌の役割

妊娠中の母体の菌質環境は赤ちゃんの発育に大きな影響があることをご理解いただけたと思いますが、母体の腸内フローラのバランスを整えて健康な菌環境を形成するためにはどうしたら良いのでしょうか。その解決策の一つとして、ロイテリ菌のような乳酸菌の摂取が挙げられます。理由としては、ロイテリ菌は乳酸菌の中でもヒト母乳由来の乳酸菌であるからです。
さてこのロイテリ菌、母体の免疫機能を強化するだけでなく母乳の質を改善し、赤ちゃんが受け取る栄養素のバランスも改善した報告もあります。結果的に赤ちゃんの免疫システムの発達を助け、アレルギーや病気のリスクを減少させることが期待できます。

出典:Probiotic lactobacilli in breast milk and infant stool in relation to oral intake during the first year of life
(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19525871/)



まとめ

妊娠中の母体の菌環境は赤ちゃんの免疫システム発達に大きく関わります。この期間は歯肉炎や歯周炎になりやすく、その毒素がやがてお腹の中の赤ちゃんに影響してしまう可能性もあります。口内環境と腸内環境の双方に気を配り、健やかな赤ちゃんが生まれるための準備をしていきましょう。

監修者

監修:今西 洋介医師

新生児科医、小児科医、小児医療ジャーナリスト
日本小児科学会専門医/日本周産期新生児学会・新生児専門医。小児公衆衛生学者。

富山大学医学部卒業後、都市部と地方部の両方のNICUで新生児医療に従事する。
Xアカウント「ふらいと」(@doctor_nw)やニュースレターを通じて、医療啓発を行いつつ子どもの社会問題を社会に提起している。

監修書籍に『新生児科医・小児科医ふらいと先生の 子育て「これってほんと?」答えます』『ぼくのかぞく ぼくのからだ』など